問題社員との合意退職を進める前に必要な3つの準備難易度★☆☆

合意退職の前段整理
「もう解雇しかない」とあきらめる前に

問題社員対応では、「もう解雇するしかない」と感じる場面があります。
しかし、安易な解雇は、解雇後の賃金をさかのぼって支払う必要や、
復職対応など、会社に大きな負担を残すことがあります。
だからこそ、いきなり解雇に進む前に、本人との話し合いで解決できる余地をあきらめず、
合意退職に向けた準備を整えることが重要です。

前回の記事では、安易な解雇がもたらす3つのリスクについて解説しました。
問題社員がいる、会社は困っている、けれど法律の知識が十分ではない。
そのような場面では、「解雇すればよいのではないか」と考えたくなることがあります。

しかし、準備が不十分なまま解雇に進むと、その解雇が無効と判断される可能性があります。
解雇が無効となれば、過去にさかのぼった賃金、いわゆるバックペイや復職対応が問題となり、
特に小規模な会社では、経営に大きな影響を与えることもあります。

そこで現実的な選択肢として検討されるのが、話し合いによる合意退職です。
もっとも、合意退職も、いきなり「辞めてください」と伝えれば成立するものではありません。
本人との話し合いで解決できる余地をあきらめず
退職勧奨に入る前に、会社として何を整理し、どのような条件で話し合うのかを準備しておく必要があります。

この記事で整理すること

問題社員対応では、会社側も追い詰められていることがあります。
注意しても改善しない、周囲から不満が出ている、本人は問題を認めない。
このような状態が続くと、会社としては「もう解雇しかない」と感じやすくなります。

しかし、実務上こわいのは、会社に悪意がある場合だけではありません。
どう進めればよいか分からないまま、強い言葉や乱暴な対応に流れてしまうこと
が大きなリスクになります。

そこで、問題社員対応を「解雇するか、しないか」だけで考えるのではなく、
前回・今回・次回の流れに分けて整理します。

問題社員対応の流れ
第1回
いきなり解雇に進まない

安易な解雇が無効となった場合のバックペイ、復職対応、信用リスクを確認します。

今回
話し合いで解決する道を諦めない

合意退職に向けて、会社として整理すべき前提を確認します。

第3回
退職勧奨を進める

実際にどのように話し合いを始め、どのように着地させるかを整理します。

このうち、今回の記事で扱うのは、退職勧奨に入る前の準備です。
いきなり退職の話を切り出すのではなく、会社として何を整理し、どのような条件で話し合うのかを確認します。

つまり、この記事は「相手をうまく辞めさせる方法」を紹介する記事ではありません。
「もう解雇しかない」と感じる場面で、いきなり解雇に進まず、
会社を守りながら、本人との話し合いで終わらせるために何を整理しておくべきかを確認する記事です。

地味な準備に見えるかもしれませんが、この前提整理があるからこそ
退職勧奨の場面で感情的な押し付けにならず、
会社としても説明できる形で、本人との話し合いを進めやすくなります。

合意退職とは何か

合意退職とは、会社と従業員が話し合い、双方の合意によって労働契約を終了させる方法です。
会社が一方的に労働契約を終了させる解雇とは異なり、
従業員本人の自由な意思に基づく合意が必要になります。

ここで大切なのは、合意退職は「会社が一方的に辞めさせる方法」ではないということです。
会社には会社の事情がありますが、合意退職では、本人がその話をどう受け止めるかも重要になります。
会社としては「もう雇用を続けるのは難しい」と感じていても、
本人からすれば、突然生活の土台を失う話でもあります。

そのため、合意退職を目指す場合には、
なぜ会社として雇用継続が難しいと考えているのか、
本人にどのような選択肢があるのか、
退職する場合にどのような条件を提示できるのかを整理する必要があります。

合意退職は、「辞めさせる手続き」ではありません。
会社と従業員の事情を整理し、終わり方をすり合わせる手続きです。

会社にとっては、感情的に「もう辞めてほしい」と言いたくなる場面でも、
本人の納得がないまま進めれば、後から「退職するしかない状況に追い込まれた」
「本当は退職したくなかった」と争われる可能性があります。

だからこそ、合意退職では、会社の事情を整理するだけでなく、
本人が受け止められる形で説明し、退職条件を整えることが重要です。
会社だけが一方的に押し切るのでも、本人の希望をすべて受け入れるのでもなく、
双方が一定の負担を受け入れながら、現実的な落としどころを作ること
が、後から争われにくい終わり方につながります。

なぜ、いきなり退職勧奨に入ると危ないのか

合意退職を目指すには、会社と従業員との話し合い、いわゆる退職勧奨が必要になることがあります。
しかし、準備がないまま退職勧奨に入ると、会社の焦りや不満がそのまま言葉に出てしまうことがあります。

たとえば、「このままなら解雇になる」「もう会社にはいられない」
「辞めてもらうしかない」といった言葉が先に出てしまうと、
本人からは、話し合いではなく一方的に退職を迫られたと受け止められる可能性があります。

問題は、退職勧奨という手続き自体が悪いということではありません。
会社として、何が問題なのか、なぜ雇用継続が難しいのか、
どのような条件であれば話し合いができるのかを整理しないまま、
退職の話だけを切り出してしまうことが危ないのです。

退職勧奨は、準備した材料をもとに行う話し合いです

退職勧奨は、感情をぶつける場ではありません。
事実関係、本人への説明、退職条件、退職後の失業保険、助成金への影響などを整理したうえで、
会社として説明できる状態を作ってから進めることが重要です。

つまり、退職勧奨に入る前に必要なのは、相手を言い負かす言葉を探すことではありません。
まずは、会社として何を伝えられるのか、どこまで条件を提示できるのか、
どのような終わり方を目指すのかを整理することです。

退職勧奨に入る前に整理すべき3つの準備

退職勧奨がこじれる原因は、話し方だけにあるわけではありません。
会社が何を材料に話し合うのかを整理できていないまま、
退職という結論だけを先に伝えてしまうことにあります。

だからこそ、退職勧奨に入る前には、本人を説得する言葉を探すのではなく、
会社として説明できる材料を整えておくことが重要です。

具体的には、次の3つを確認しておきます。

1
本人との認識のズレを整理する

会社が問題だと感じている行動について、本人が同じように問題だと認識しているとは限りません。
まずは、本人の認識と、職場で起きている現実とのズレを整理します。

2
現実的な退職条件を設計する

合意退職では、退職日、(特別)退職金、有給休暇、引継ぎなどの条件整理が必要になります。
会社が無理をしすぎず、それでも本人が次に進みやすい、現実的な条件を検討します。

3
失業保険と助成金への影響を確認する

退職勧奨による離職は、本人の失業保険や、会社の助成金に影響することがあります。
本人に説明できるメリットと、会社側に生じる影響を事前に確認します。

準備1:本人との認識のズレを整理する

退職勧奨に入る前に、まず整理したいのが、会社と本人との認識のズレです。
会社が「問題行動だ」と感じていることについて、
本人が同じように問題だと認識しているとは限りません。

いわば、本人の自己認識と、職場で起きている現実との間にズレがある状態です。
このズレを整理しないまま退職の話を切り出すと、
本人の納得を得にくくなります。

たとえば、注意しても反論が多い、周囲とのトラブルが続いている、
業務上の指示に従わない、職場の雰囲気を乱しているといった場面でも、
本人としては「自分は正しいことを言っている」「会社の方がおかしい」と考えていることがあります。

また、本人が自分の行動に問題があることを何となく分かっていても、
「自分だけは特別に許される」「これくらいは問題にならない」と考えている場合もあります。
このような状態では、会社がどれだけ困っているか、周囲にどのような影響が出ているかが、
本人の中で十分に結びついていないことがあります。

さらに、会社としては以前から問題を感じていたとしても、
本人に対して明確な注意指導をしていない場合もあります。
そのような段階でいきなり退職勧奨に入ると、
本人からすれば「これまで何も言われていなかったのに、突然退職の話をされた」と受け止められやすくなります。

まず確認したいのは、注意指導のフェーズです

まだ明確な注意指導をしていない場合は、退職の話に進む前に、
まず問題点を伝え、改善を求める機会を設けることを検討します。

すでに注意指導をしている場合は、どの行動を問題視し、どのように伝え、
本人がどう反応したのかを整理します。

もちろん、重大な非違行為など、直ちに別の対応を検討すべき場面もあります。
ただ、通常の問題社員対応では、退職の話に進む前に、
注意指導の有無を確認しておくことが重要です。

なお、ここで大切なのは、本人に「あなたは問題社員です」と決めつけることではありません。
具体的な事実をもとに、本人が自分の置かれている状況を理解できるようにすることです。

人は、ただ責められたと感じれば反発します。
しかし、会社が本気で向き合い、何に困っているのかを具体的に伝えたとき、
本人が「自分のために言ってくれている部分もある」と受け止め直す余地が生まれることがあります。

この過程は根気がいります。
長い時間をかけて形成された考え方や行動パターンは、一度の面談で簡単に変わるものではありません。
しかし、この整理をしないまま退職の話だけを進めると
本人の納得を得にくくなり、後日のトラブルにつながりやすくなります。

準備2:退職条件を設計する

合意退職では、会社側の事情だけでなく、従業員側の事情も考える必要があります。
会社として雇用継続が難しいと感じていても、
本人にとって退職は、生活や転職活動、家族への説明に関わる大きな問題です。

そのため、会社として雇用継続が難しい理由を整理するだけでは足りません。
本人が退職を現実的な選択肢として考えられるように、
会社の体力に見合った退職条件を設計することが重要です。

筋目だけでは動けない。
金目だけでも納得されない。

会社として、なぜ雇用継続が難しいのかを説明することは「筋目」です。
しかし、本人が退職後の生活に不安を抱えている場合、
筋目だけで合意に至るとは限りません。

一方で、金銭条件だけを先に提示しても、
本人から見れば「お金を払うから辞めろと言われた」と受け止められる可能性があります。
合意退職では、会社としての説明と、本人が次に進むための条件をあわせて整理する必要があります。

そこで、実務上は、退職日、最終出勤日、有給休暇の扱い、
退職金・特別退職金、引継ぎ方法、貸与品の返却、退職後の失業保険などを整理し、
会社としてどこまで提示できるのかを確認します。

退職条件は、会社の体力に見合った現実的な設計が重要です

特別退職金は、単にお金で退職を買うためのものではありません。
転職活動期間中の生活不安を和らげ、本人が次の選択肢を考えやすくするための条件として検討します。
ただし、会社が無理をしすぎれば、今度は会社経営に負担が残ります。

退職条件は、会社だけが一方的に負担を背負うものでも、
本人の希望をすべて受け入れるものでもありません。
双方が一定の負担を受け入れながら、現実的な落としどころを作ることが大切です。

準備3:退職後の失業保険と助成金への影響を確認する

合意退職を進める際には、退職後の失業保険の取扱いも重要になります。

退職勧奨により従業員が離職した場合、いわゆる会社都合退職として扱われ、
雇用保険上は特定受給資格者に該当することがあります。
その場合、失業手当の受給開始時期や給付日数に影響するため、
本人にとっては大きなメリットになることがあります。

実務上の注意
退職勧奨をしたのに、自己都合退職として処理しない

実務上問題になりやすいのは、退職勧奨によって離職したにもかかわらず、
会社側が自己都合退職として処理しようとするケースです。

助成金への影響を避けたいという事情があっても、
離職票の記載や本人への説明は、実際の経緯に沿って整理する必要があります。

会社都合退職として扱われることは、本人にとっては失業保険の面でメリットになることがあります。
会社に直接の金銭負担が生じるわけではないため、
合意退職の条件として、本人に説明できる要素になることもあります。

ただし、助成金を申請している、または今後申請を検討している会社では注意が必要です。
助成金の種類によっては、会社都合離職者の有無が、受給要件や支給額に影響することがあります。

本人へのメリットと、会社への影響を両方確認する

退職勧奨による離職として整理される場合、本人にとっては失業保険の面でメリットになることがあります。
一方で、会社にとっては助成金への影響が生じる可能性があります。
合意退職を進める前に、本人に提示できる条件と、会社側に生じる影響を両方確認しておくことが重要です。

合意退職で避けたい進め方

合意退職は、本人の自由な意思に基づく合意が必要です。
そのため、進め方を誤ると、後から錯誤、強迫などを理由に争われる可能性があります。

特に、次のような進め方には注意が必要です。

1
「辞めなければ解雇」と断定する

解雇の有効性が十分に整理できていない段階で、
「辞めなければ解雇する」と断定的に伝えると、
退職の意思表示が後から争われるリスクがあります。

2
その場で退職届を書かせる

本人に考える時間を与えず、その場で退職届を書かせると、
後から「冷静に判断できなかった」と主張される可能性があります。

3
退職条件をあいまいなまま進める

退職日、退職金・特別退職金、有給休暇、失業保険の取扱いなどがあいまいなまま進むと、
合意内容をめぐるトラブルにつながります。

合意退職を目指す場合には、強く押し切るのではなく、
会社としての見通し、本人の選択肢、提示できる条件を整理したうえで、
段階的に話し合いを進めることが重要です。

合意した内容は書面で残す

合意退職の話し合いがまとまった場合でも、口頭だけで終わらせるのは避けた方がよいです。
後から「言った」「言わない」にならないように、
合意した内容は書面で整理しておくことが重要です。

書面では、退職日、最終出勤日、有給休暇の扱い、退職金・特別退職金の有無と支払時期、
貸与品の返却、業務の引継ぎ、退職後の失業保険に関わる離職理由・離職票の取扱いなどを確認します。

合意退職で整理しておきたい主な事項
1
退職日・最終出勤日

いつ労働契約を終了するのか、いつまで出勤するのかを明確にします。

2
退職条件

退職金・特別退職金、有給休暇、賃金精算、貸与品返却、引継ぎなどを整理します。

3
離職理由・離職票の取扱い

退職後の失業保険や助成金への影響を確認し、事実に沿って整理します。

合意退職の内容をどのような書面で残すかは、後日の紛争予防に大きく関わります。
特に、退職勧奨、退職金・特別退職金、離職理由、未精算事項が絡む場合には、
退職合意書や確認書などで何を整理しておくべきか、
事前に専門家へ相談しながら進めることをおすすめします。

記事のまとめ

この記事では、問題社員対応でいきなり解雇に進む前に、
合意退職に向けて会社が整理すべき準備を確認しました。

退職勧奨に入る前に整理すべき3つの準備
1
本人との認識のズレを整理する

問題行動、職場への影響、注意指導の有無などを具体的な事実として整理します。

2
退職条件を設計する

退職日、退職金・特別退職金、有給休暇、引継ぎなど、現実的な条件を整理します。

3
失業保険と助成金への影響を確認する

退職後の失業保険、助成金への影響を事前に確認し、実際の経緯に沿って整理します。

合意退職は、いきなり解雇に進まないための現実的な選択肢になることがあります。
しかし、準備がないまま退職の話を進めると、本人の納得を得られず、
後から錯誤・強迫など、退職の意思表示をめぐる問題として争われる可能性があります。

ただ、実務上の問題は、法律上の評価だけではありません。
そもそも会社として、どのような選択肢があり、何を整理してから話し合うべきかが見えていないまま、
いきなり退職や解雇という結論に進んでしまうことがあります。

だからこそ、退職勧奨に入る前に、
本人との認識のズレ、退職条件、退職後の失業保険や助成金への影響を整理し、
会社として説明できる材料を整えておくこと
が重要です。

次回の記事では、この準備を前提に、
合意退職に向けて会社が押さえる退職勧奨の進め方
について解説します。

問題社員との合意退職・退職勧奨を進める前にご相談ください

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