中途採用社員の能力欠如型問題社員への対応方法と実務的アプローチ
『即戦力』を期待されて入社した中途採用社員は、長期雇用を前提に採用された新卒・第二新卒社員とは異なり、解雇が比較的認められやすい傾向があります。
その理由として、中途採用社員は雇用契約時に特定の能力やスキルが求められるケースが多く、期待される能力を発揮できない場合には、解雇の正当性を証明しやすい側面があるからです。
ただし、解雇が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります:
- 雇用時に予定された能力を全く有さないこと
- 改善しようとする意欲が見られないこと
これらの要件を証明するためには、従業員に対する教育指導や改善機会の提供が不可欠です。
【補足】ヒロセ電機事件
ヒロセ電機事件(東京地裁平成14年10月22日判決)では、即戦力として中途採用された社員が、期待された能力を欠き、改善の意欲も示さなかったため、解雇が有効と判断されました。
この裁判例は、即戦力として途採用された社員の能力不足を理由とする解雇の正当性を立証する際の基準として参照されており、解雇手続きにおける慎重な対応の重要性を示しています。
【補足】勤務態度不良型の問題社員への対応
勤務態度が不良な問題社員(例:業務命令違反や反抗的な態度を示す場合)には、ここで説明している『純粋な能力欠如型』とは異なる対応が必要です。詳細については、以下の記事をご覧ください。
解雇が難しい理由
もし、雇用契約の内容として職務や能力を具体的に特定していたとしても解雇の正当性を客観的に証明するためには、次のような課題が重要な争点となります。
- 教育指導の程度: 将来の業務継続が困難と判断される状況を示すために、どの程度の教育指導が必要か、その基準が曖昧。
- 改善機会の提供: 解雇が最終手段であると認められるために、何回、どのような形で態度を改める機会を与えるべきか、その基準が曖昧。
これらの基準は、裁判官によって判断が分かれることが多く、解雇が有効とされるか、不当解雇とされ多額の賠償や雇用継続を命じられるかを予測することは困難です。こうした不確実性から、解雇を回避する方向で対応を進めるべきです。
解雇を避け、合意退職を目指すべき理由
問題社員対応の現実的な解決策として、合意退職を目指すことが重要です。合意退職は、問題行動が改善されない場合に、双方にとって納得のいく解決策となる場合が多く、法的リスクを大幅に軽減します。
ただし、合意退職を成立させるには、問題社員特有の自己認識の歪みに気付かせる取り組みが必要です。なぜなら、多くの問題社員は自分の行動が問題だと認識しておらず、そのままでは改善や退職に向けた話し合いが進みにくいためです。
この過程では、教育指導や改善機会を段階的に提供しながら、問題行動の原因を本人に理解させることを目指します。
矯正過程と段階的な指導の両立
問題社員の自己認識を改善する取り組みは、万が一解雇を選択する場合の基盤を整えるプロセスと両立可能です。例えば、以下のような段階的な指導を行うことで、両方の目的を達成できます。
これらの段階を経ることで、問題行動の記録を整備しつつ、本人の改善意欲を引き出す努力を行います。
矯正しきれなかった場合の対応
それでも問題行動が改善されない場合、退職勧奨が最善策となることがあります。特に、自己認識の歪みに気付かせる取り組みを十分に行った後の退職勧奨は、有効な解決手段となる場合が多いです。
これは、段階的な指導や改善機会の提供を通じて、問題社員が少なからず自身の問題点を認識し、状況を冷静に受け止める準備ができているからです。また、こうしたプロセスを経ることで、問題社員に対する真摯な対応が伝わり、当初とは異なる気持ちで話し合いに臨む可能性が高まります。
退職勧奨は、解雇を避けつつ双方にとって納得のいく解決策を提供する手段であり、労使関係を大きく損なうことなく問題を解決する可能性を高めます。
本記事の目的
本記事では、解雇が難しいとされる背景を踏まえた上で、教育指導、配置転換、退職勧奨、そして普通解雇を含む労働能力欠如型の問題社員(即戦力の中途採用者)に対する実務的な対応方法について詳しく解説します。
【新卒・第二新卒社員の場合】
長期雇用が前提の新卒・第二新卒社員については、労働契約における内容(債務)が異なり、企業側には育成や指導の責任が強く求められます。この場合の対応方法は、以下の記事をご覧ください。
労働能力欠如型社員(即戦力の中途採用者)の特徴と背景
労働能力欠如型社員(即戦力の中途採用者)の特徴
- 業務の理解が遅く、指示通りに行動できない。
- 基本的なビジネススキル(報告・連絡・相談)が不足している。
- 教育指導や研修を重ねても改善の兆しが見えない。
- 与えられた業務に対する責任感や意欲が希薄に見える。
背景の分析
- 個人的要因
- 採用者の経験やスキルが期待値を大きく下回っている。
- 前職の業務内容とのミスマッチによる適応力不足。
- モチベーションや成長意欲が低く、改善の意思が見られない。
- 会社のルールや文化に対する理解不足や認識の歪み。
- 職場環境の問題
- 採用時の業務内容や役割の説明が不十分で、認識にズレが生じている。
- OJTや研修体制が整っておらず、能力向上のサポートが不足している。
- 業務フォローや管理体制の甘さにより、問題が放置されている。
- 中途社員を受け入れる風土がない。
- 複合的な要因
- 採用時の業務内容やスキルの認識ズレが、期待値との差を生じさせる。
- 前職とのミスマッチと研修体制の不備が適応を妨げる。
- モチベーション低下に対する管理やフォローの不足で状況が悪化する。
- 会社ルールの認識不足と受け入れ風土の欠如が孤立を招く。
労働能力欠如型問題社員(即戦力の中途採用者)のペルソナ
ペルソナ1: 目標未達が続き、フォローが必要な営業社員
- 名前: 鈴木 太郎 (33歳 男性)
- 役職: 営業担当
- 特徴:
- 即戦力として期待され、中途採用で入社6年目。以前の職場ではトップセールスを誇り、豊富な営業経験が評価されて採用された。
- 現在は目標未達が続いており、前年比65%達成にとどまる。
- クライアント対応の不備(納期遅れや提案内容の不一致)が頻発し、部内で最多のクレームを受けている。
- 上司への報告が簡素化され、重大なトラブルが後手に回ることが多い。
- 「忙しくて時間が取れない」「環境が違う」といった言い訳を繰り返し、改善の兆しが見られない。
- 職場への影響:
- 他の営業担当がクレーム対応に追われ、契約業務の遅延が発生。
- クライアントからの信頼低下により、紹介案件が減少(前年比で新規契約数20%減)。
ペルソナ2: 管理職候補から昇格したが課題を抱える社員
- 名前: 田中 花子 (40歳 女性)
- 役職: 総務部長
- 特徴:
- 即戦力として期待され、課長職での実績を評価されて中途採用された後、入社10年目で部長に昇格。
- 昇格後に課題が顕在化し、業務全体を俯瞰して指示を出すことが苦手で、細かい業務に介入しすぎる傾向がある。
- 部下からは「仕事を任せてもらえない」「話が長い」との声が出ており、モチベーションが低下。
- 組織間の調整においてリーダーシップを発揮できず、他部署との連携が滞る。
- 職場への影響:
- 部門全体の士気低下により、離職率が上昇。
- 総務部としての対応が遅れ、他部署からの信頼が低下。
ペルソナ3: 専門職として期待されるも能力不足が課題
- 名前: 山本 健太 (38歳 男性)
- 役職: ITエンジニア
- 特徴:
- 即戦力として採用され、入社5年目。
- システム開発のプロジェクトリーダーとして期待されているが、プロジェクト管理能力に課題がある。
- 顧客要望を正確に把握できず、仕様書が頻繁に修正される。
- 新しい技術への対応が遅れ、トレンドについていけない。
- 部下からのフィードバックを軽視し、チーム内のコミュニケーションが不活発。
- 職場への影響:
- プロジェクトの進行が滞り、納期遅延が発生。
- 顧客からの信頼が損なわれ、契約更新に影響が出る可能性。
- チームの士気低下により、人材流出のリスクが高まる。
ペルソナ4: 外資系企業で即戦力を求められるが期待を下回る管理職
- 名前: ジェームズ・スミス (45歳 男性)
- 役職: 営業部長
- 特徴:
- 即戦力として高額報酬で採用された外資系企業の部長職。
- 戦略的な判断や市場分析を期待されていたが、意思決定が遅れ、チーム全体の士気に悪影響を及ぼしている。
- 現場の声を十分に汲み取れず、部下からの信頼を失いつつある。
- 競合他社への対応が後手に回り、マーケットシェアを奪われている。
- 会社のビジョンに対する理解が不足しており、戦略と実行計画の乖離が目立つ。
- 職場への影響:
- 営業チーム全体のパフォーマンス低下により、業績が悪化。
- 優秀な部下が退職を検討し始めるなど、人材流出のリスクが高まっている。
- 社内外での評判が低下し、競合優位性が失われつつある。
具体的な対応方法
1. 期待する労働能力の明確化
長期雇用が前提の新卒・第二新卒社員などとは異なり、中途採用社員には即戦力としての期待がある一方で、求める能力が曖昧になっていることがよくあります。これにより、企業側と従業員側の認識にズレが生じ、思い違いが発生することが少なくありません。
ヒロセ電機事件における「雇用時に予定された能力を全く有さないこと」を満たすためにも、期待する労働能力の明確化は、非常に重要です。具体的な業務基準を設定し、双方の認識を一致させることで、能力不足の立証や改善指導の実効性を高めることができます。
これまでの注意指導を基に、改善指導書(記載例_改善指導書(営業事務))を作成することが重要です。このフェーズでは、改善指導書を活用して会社が求める業務水準と従業員の実際の行動との能力差を明確化しましょう。
- 会社が求める労働能力や水準を明確にし、職種ごとに設定する。
- 求める能力を「A. 期待する業務水準」として整理し、現状の業務遂行状況を「B. 実際の行動」として対比する。
- 問題点と改善目標をリスト化し、社員に理解を促す。
- 明確な基準を設定することで、指導のフェアネスが保たれ、改善の機会提供が明確になる。
2. 教育指導の徹底
改善指導書の交付した後の指導では、まず指導期間を明確に設定することが重要です。
例えば、3ヶ月や6ヶ月といった具体的な期間を区切ることで、指導者の負担を軽減しつつ、改善に向けた明確な目標を立てることができます。
設定した期間内に改善が見られない場合は、求める業務水準の見直しや再教育指導を行うか、次の対応(配置転換や退職勧奨)を検討します。
<定期的な進捗確認と面談>
- 日々、業務の進捗確認を行い、期待する業務水準に向けて指導行います。
- 定期的(毎週または2週間ごと)な面談(記載例_面談記録シート)にて進捗をチェックし、改善状況を確認します。
- 指導は口頭指導を基本としつつ、進捗確認は、書面(記載例_改善指導フォローアップ書(営業事務))で記録します。
- 業務日報(記載例_業務日報)の活用も非常に効果的です。 以下の内容を業務日報に記載させることで、指導の効率化と社員自身の意識改善を図ります:
- 本日の業務内容と完了状況
- 未完了業務およびその期限
- 業務を通じての気づきや改善点
- 指導者からのフィードバック
⚠:非生産的な残業を認めるのではなく、所定労働時間内に業務改善を求めることが重要です。
【補足】業務日報の効果
業務日報は、指導者が業務状況を把握しやすくなるだけでなく、指導の内容が記録として残すことができます。また、適正なフィードバックを行うことによる指導は、労働組合(ユニオン)や弁護士への駆け込みに対応でき、直ちにパワハラとの評価を受けるものではありません。
加えて、問題社員に業務日報をつけさせることで、業務内容を客観的に可視化し、自身の業務遂行状況を振り返るきっかけとなります。これは、問題行動やパフォーマンスの改善に向けた第一歩として有効であり、指導者にとっても的確な対応策を講じることができる取り組みとなります。
なお、特定の従業員にのみ業務日報をつけることを命じる場合、その業務命令が合理的な理由(問題行動の改善など)に基づいており、過度な負担を与えない限り、直ちにパワハラと評価されるものではありません。
3. 配置転換の実施
本記事では、中途採用社員の対応について、契約形態や役職に応じた4つのパターンを解説しています。以下の用語を理解した上で読み進めてください。
項目 | 内容 |
---|---|
職種 | 従業員が担う仕事の種類を指し、業界や分野をまたいで使用される概念。(例: 営業職、技術職、事務職) |
職務 | 特定の職場や役職において割り当てられた具体的な仕事や責任を指す。(例: 顧客対応業務、商品開発業務、採用業務) |
職種(職務)非限定契約 | 職種(職務)が限定されておらず、柔軟な配置転換が可能な契約形態。総合職や雇入れ直後は1つの職種を担うが、配置転換が制限されていない場合もこれに該当する可能性が高い。 |
職種(職務)限定契約 | 特定の職種(職務)に限定される契約形態。外資系企業や専門職採用に多く見られる。 |
管理職 | 組織運営や部下のマネジメントを担い、職務遂行の責任が大きい役職。 |
非管理職 | 主に業務遂行者としての役割を担う。 |
配置転換は、従業員の適性や業務能力を確認するための有効な手段ですが、会社にあるすべての職種を検討する必要はありません。
まずは1つの職種に配置し、その職種での適性を確認します。適性が見られなかった場合にのみ、次の候補職種への配置転換を段階的に検討します。なお、一般的には2~3個の職種を経験させる範囲が現実的です。
【補足】配置転換の柔軟性
配置転換は、報告・連絡・相談ができない、ビジネス文章が正しく書けないなどの基礎的な能力が欠如している場合、必ずしも必要ではありません。
しかし、人間関係を一新することでモチベーションの変化が見られる場合もあります。こうした状況に応じて柔軟な対応を取ることが重要です。
1. 職種(職務)非限定契約 × 非管理職
即戦力を期待され非管理職(※配置転換の制限なし)として中途採用された社員が、期待された業務遂行能力を発揮できない場合。
- 他職種(職務)への配置転換: 配置転換(記載例_辞令(配転命令))を通じて適性のある職種(職務)を見極めます。例えば「営業職」で成果が出せない場合、「事務職」へ異動させ、業務遂行能力を確認します。
- 適正が見られない場合の対応: 配転先でも適正がみられない場合、再度配置転換を実施します。また、再配転先でも適正が見られない場合、退職勧奨のフェーズに移行します。
- 退職の合意が得られない場合の対応: 退職勧奨を行ったものの退職の合意が得られない場合は、再教育または普通解雇を検討します。
【補足】: 配置転換する職種がない零細企業では、退職勧奨のフェーズに移行することも現実的な選択肢となります。
2. 職種(職務)非限定契約 × 管理職
即戦力を期待され管理職候補(※配置転換の制限なし)として中途採用され、管理職に昇進したものの、組織運営や業績向上といった役割を果たせていない場合。
- 降格を優先的に検討: 管理職の職責を果たせない場合、まずは「下位役職」や「一般職」への降格命令(記載例_辞令(降格))を実施して再評価を行います。この段階では、現職務のまま業務遂行状況を確認し、改善の可能性を探ります。
- 他職種(職務)への配置転換: 降格後も改善が見られない場合、適性を見極めるために他職種(職務)への配置転換を検討します。例えば、「営業職」から「事務職」へ異動させ、業務遂行能力を確認します。
- 適正が見られない場合の対応: 配転先でも適正がみられない場合、再度配置転換を実施します。また、再配転先でも適正が見られない場合、退職勧奨のフェーズに移行します。
- 退職の合意が得られない場合の対応: 退職勧奨を行ったものの退職の合意が得られない場合は、再教育または普通解雇を検討します。
【補足】トムの庭事件
トムの庭事件(東京地裁平成8年12月11日決定)を踏まえると、降格は原則、1ランク程度にとどめるのがポイントです。美容室の店長が降格処分を経て解雇された本件では、裁判所が降格や解雇の妥当性を検討し、降格後の業務や改善指導の内容が争点となりました。
この判例は、降格時に単に役職を下げるだけでなく、問題点を具体的に指摘し、改善すべき課題を明確にした上で、どのような改善が認められれば元の役職に復帰できるのかを示し、十分な理由説明と改善の機会を提供することが重要であることを示しています。
【補足】: 配置転換する職種がない零細企業では、退職勧奨のフェーズに移行することも現実的な選択肢となります。
3. 職種(職務)限定契約 × 非管理職
即戦力として職種(職務)を特定され非管理職(※配置転換の制限あり)で中途採用された社員が、期待された業務遂行能力を発揮できない場合。
- 配置転換の打診: 職種(職務)が限定されている場合でも、配置転換の打診(※職種変更には個別の同意が必要)は、解雇の正当性を裏付ける重要な要素となります。また、柔軟な選択肢として従業員が新たな職種に適応し、問題解決や能力発揮の可能性を探る現実的な効果も期待できます。
例えば、「専門職」で成果が出せない場合、「関連するサポート業務や補助的な役割」への異動を打診し、能力発揮の可能性を探ります。なお、この時に賃金等の待遇を下げた提案も検討するべきです。 - 拒否時の対応: 配置転換の打診を従業員が拒否した場合や、改善意欲が見られない場合は、その事実を記録し、解雇に向けた正当性の立証材料とします。また、現実的な対応として退職勧奨のフェーズに移行します。
- 退職の合意が得られない場合の対応: 退職勧奨を行ったものの退職の合意が得られない場合は、再教育または普通解雇を検討します。
【補足】プラウドフットジャパン事件(東京地判平12.4.26)
中途採用の場合、これまでの別分野での経験や実績を踏まえ、未経験であっても「即戦力」としての能力発揮が期待されるケースがあります。
特に、高額な報酬が提示されていたり、専門職や特定の役職を前提とする契約内容の場合、その期待が「契約上の合理的な内容と解釈」される可能性があります。
そのため、採用後一定期間の稼働を経ても求められる能力や成果が平均的水準に達していない場合、「未経験者」であっても解雇の正当性が認められる場合があります。
ただし、こうしたケースでは、未経験者であっても専門的な能力を見込んで採用したことを明確にするため、雇用契約書や職務内容書において職種や期待される役割を具体的に限定しておくことが重要です。
【補足】: 配置転換する職種がない零細企業では、退職勧奨のフェーズに移行することも現実的な選択肢となります。
4. 職種(職務)限定契約 × 管理職
即戦力として中途採用され、管理職(※配置転換の制限あり)として特定の役割を期待されているが、成果が著しく不足している場合。
- 退職勧奨を優先: 職種(職務)が特定されている管理職は、配置転換の余地がないため、まずは退職勧奨を実施し、合意退職を目指します。
- 拒否時の対応: 退職勧奨に合意が得られない場合、次の手段として降格命令を実施し、
職務と待遇を調整します。なお、降格命令で職務と待遇を調整できなければ個別の同意を取得して対応します。 - その後の対応: 降格命令後や個別同意を取得し、職務と待遇を調整した後も改善意欲が見られない場合や個別同意が取得できなかった場合、再教育または普通解雇を検討します。
【補足】:能力欠如による管理職の降格は、原則として人事権の行使(会社の裁量)として可能かを検討します。
契約形態×職位 | 配置転換の方向性 |
---|---|
非限定契約×非管理職 |
|
非限定契約×管理職 |
|
限定契約×非管理職 |
|
限定契約×管理職 |
|
3.5. 懲戒処分の検討
前述のとおり、教育指導や配置転換を行っても改善が見られない場合、退職勧奨→解雇のフローが通常視野に入ります。
しかし、中途採用社員(即戦力)では、企業秩序の観点や業務上の影響から、以下のように懲戒処分を用いる場合があります。
- 「早い段階での厳重注意」という意味合いの懲戒処分
- 繰り返される問題行動への「警告」としての懲戒処分
- 「最終警告」としての懲戒処分
どのタイミングで懲戒処分を行うのか?
- 「教育指導」を実施しても初歩的なミスが続発するなど、秩序維持上看過できない場合は、この段階(配置転換前後)で譴責・減給といった軽度の懲戒処分を検討することがあります。
- 配置転換後でも問題行動が続くようであれば、出勤停止・降格といった中度の懲戒処分を「最終警告」として実施し、その後も改善が見込めないようなら退職勧奨や解雇へ進むパターンもあります。
- さらに、退職勧奨を拒否されている段階で最終的に懲戒を科す(「これでも改善がなければ解雇に踏み切る」)ケースもあります。
このように、懲戒処分は一度きりの「最終手段」だけとは限らず、教育指導以降のさまざまなフェーズで適用される可能性があります。とはいえ、
- 就業規則に定める懲戒事由との整合性
- 手続の適正(原則として、本人への弁明機会付与等)
- 懲戒処分の社会的相当性
といった法的要件を厳守しなければ、後々トラブル(不当懲戒の主張など)に発展するリスクが高まります。
懲戒処分を検討する際には、社内規程の整合性を確認するとともに、まずは会社が果たすべき教育指導や配置転換などの改善手段を十分に検証・実施し、それらを踏まえた上で対応することが重要です。
【新卒・第二新卒社員の場合】
新卒・第二新卒社員では、長期的な育成を前提としているため、懲戒処分はあくまで例外的措置となります。主に「重大な損害や秩序の乱れ」が発生した場合に軽度の処分(譴責・減給など)を「最終警告」として行い、改善の最後の機会を与える意図で適用されます。
4. 退職勧奨の実施
教育指導や配置転換を行っても改善が見られない場合、退職勧奨を行い、合意による退職を目指します。
- 退職勧奨のポイント:
- 強制ではなく、あくまで選択肢として提示する。
- 退職勧奨を行う際は、本人が内容を十分に理解し納得できるよう、具体的な条件や理由を明確に伝える。
具体的な進め方や注意点については、以下のリンク先の記事をご確認ください。
なお、退職勧奨が成立しない場合でも、普通解雇に踏み切るほど重大でなければ、教育指導や配置転換の再実施、働き方の見直し、再度問題行動が起きた際の懲戒処分、再度の退職勧奨提示など“段階的対応”を検討する必要があります。
5.契約解除(普通解雇)
問題社員への対応の最終手段として普通解雇が挙げられます。ただし、普通解雇を適用するには、法的に厳しい要件を満たす必要があります。
これらを判断するために、以下の5-1から5-4の内容を検討します。
5-1. 解雇事由の特定
普通解雇を行うには、解雇理由が「客観的に合理的」である必要があります。その前提条件として、問題行動が原則、雇用契約または就業規則等の解雇事由に基づいている必要があります。
幅広い問題行動に対応するためには、就業規則に柔軟な規定を設けることが重要です。特に、中小企業向けの規定例では、解雇要件を厳格にしすぎない工夫が求められます。
例えば、「著しく●●」や「再三●●」といった表現を避けることで、解雇に至る判断基準の硬直化を防ぎ、実際の運用において柔軟な対応が可能になります。
能力欠如型問題社員(即戦力の中途採用者)による問題行動の場合、「能力不足または勤務成績が不良で業務に適しないと認められたとき」該当する可能性があります。
【補足】就業規則がない場合の影響
解雇の正当性を示すためには、就業規則が有効なツールとなります。ただし、就業規則がない場合でも解雇は可能です※が、以下のようなリスクが生じます:
- 解雇事由の基準が曖昧になり、立証が難しくなる。
- 勤怠不良の程度や回数が過去の判例に依存するため、裁判で不利になる可能性が高まる。
※秀英社事件(東京地裁 昭和46年11月1日 判決)
5-2. 将来予測の原則
次の段階としては、5-1で特定した就業規則等の解雇事由に該当する問題行動が継続し、将来的に業務遂行が困難であることを予測できる必要があります。
以下を踏まえ、『雇用契約の継続を期待することが出来ないほど重大な状況に達しているか否か』を見極めることが重要です。
<判断基準>
1. 雇用契約上、従業員に求められている職務(遂行)能力の内容
2.上記の職務(遂行)能力の不足)は、雇用規約の継続を期待することが出来ないほど重大か否か(=重大性の検討)
→以下の考慮事項で客観的・総合的に判断します。
- 雇用契約締結の”経緯”
- 雇用契約締結の”内容”
- 雇用契約締結の”経過”
- 会社の主観的な評価(人事考課)
<参考:雇用の継続が期待できない重大な状況だと考えられる事例>
- 入社後、期待されたスキルや専門知識が著しく不足しており、業務遂行能力が客観的に不足している。
- 指定された業務やプロジェクトで繰り返し重大なミスを犯し、会社や顧客に多大な損失や信頼低下をもたらしている。
- 業務遂行に必要なスキルや知識の向上を目的とした指導や研修に対し、真摯に取り組む姿勢が見られない。
- 面接時に申告した経歴やスキルが虚偽であり、業務遂行能力が雇用契約の前提条件を満たしていない。
- チームや組織の業務遂行に繰り返し支障をきたし、改善を求めたにもかかわらず、業務態度や成果に改善が見られない。
5-3. 最終手段の原則
解雇は労働者にとって重大な影響を与えるため、「最終手段」であることを明確に示す必要があります。これには、会社が問題解決のために「他のあらゆる手段を尽くしたこと」を証明することが求められます。
以下の判断基準を踏まえ、「解雇が最終手段であったか否か」を慎重に見極めることが重要です。
<判断基準>
1)客観的な義務の判断
→5-2で検討した問題行動の重大性を踏まえ、それでもなお会社が雇用を継続する義務を負うべきかを検討します。
2)解雇回避措置の有無
→5-2で検討した問題行動の重大性を踏まえ、解雇を回避するために会社が取り得る期待可能な手段を十分に講じたかを判断します。
<ケース別の対応>
- 1. 5-2で検討した問題行動の重大性が認められる場合:
解雇回避措置が十分でなくとも、解雇は「客観的に合理的な理由」があると評価される可能性があります。 - 2. 5-2で検討した問題行動の重大性が不十分な場合:
解雇を回避するために可能な限りの措置を講じる必要があります。期待可能な措置を尽くしていない場合、解雇は「客観的に合理的な理由」に欠けると評価される可能性があります。
ただし、以下の例外に該当する場合は、期待可能な措置を尽くしていない場合でも解雇の正当性が認められる可能性があります。- 小規模零細企業で職種変更の余地がない場合。
- 教育・指導や配置転換を行ったにもかかわらず、能力・適性が向上せず改善の余地がない場合。
「解雇を回避するために講じるべき措置」については、これまでのセクションをご参照ください。以下にその概要をまとめています。
1. 期待する労働能力の明確化
即戦力として期待される中途採用社員には、求める能力や成果基準を明確に定義することが重要です。曖昧な基準は、従業員との認識のズレを引き起こし、問題解決を難しくします。
- 業務基準の設定: 「期待する業務水準(A)」と「現状の行動(B)」を整理して明確化します。
- 改善指導書の作成: 問題点と改善目標をリスト化し、社員に理解を促します。
2. 教育指導の実施
教育指導は、問題社員対応の基本プロセスです。以下の手順を踏まえ、改善を促します。
- 指導期間の設定: 3ヶ月や6ヶ月など、具体的な期間を設けることで目標を明確化。
- 進捗確認: 業務日報や定期面談を活用し、指導内容と改善状況を記録します。
- フィードバック: 定期的なフィードバックを行い、粘り強く指導を行います。
3. 配置転換の実施
配置転換は、適性を見極める有効な手段です。ただし、契約形態や職位によって対応が異なります。
- 職種(職務)非限定契約×非管理職の場合: 他職種(職務)への配置転換を優先し、適性を確認。
- 職種(職務)非限定契約×管理職の場合: 降格を優先し、改善が見られない場合は配置転換を検討。
- 職種(職務)限定契約×非管理職の場合: 他職種(職務)への配置転換を打診(※個別の合意が必要)し、合意が得られない場合は退職勧奨を検討。
- 職種(職務)限定契約×管理職の場合: 退職勧奨を優先し、合意が得られない場合は降格を検討。
4. 退職勧奨の実施
教育指導や配置転換を行っても改善が見られない場合、退職勧奨を通じて合意退職を目指します。
【補足】証拠化の重要性
解雇が「合理的かつ相当」であると主張するためには、各段階での対応を証拠として記録することが重要です。そのため、各セクションの取り組みは書面を交付するような方法にしています。例えば、改善指導書、フォローアップ書、業務日報などがこれに該当します。
これらの証拠は、解雇が「合理的かつ相当」であることを立証するだけでなく、裁判で会社の主張を補強する基盤となります。証拠化を進める際には、各段階での対応が適切であることを意識し、記録を一貫して整備することが重要です。
5-4. 社会的相当性の判断
解雇の社会的相当性を判断する際には、従業員に有利となり得るあらゆる事情を慎重に考慮する必要があります。これには以下の要素が含まれます:
- 不法な動機・目的: 解雇が不当な動機や目的に基づいて行われたかどうか。
- 従業員の情状: 本人の反省の態度、過去の勤務態度、処分歴、年齢や家族構成などの事情。
- 他の労働者の処分との均衡: 同様の行為を行った他の労働者に対する処分と比べて不均衡でないか。
- 使用者の対応・落ち度: 会社側が適切な注意・指導を行ったか、また対応に落ち度がなかったか。
- 解雇手続きの不履践: 解雇の手続きが適正に履践されているか。
5-1~3とのバランスを考慮
上記の事情を考慮するにあたっては、5-1(解雇理由の特定)、5-2(将来予測の原則)、5-3(最終手段の原則)において検討された解雇事由の内容、性質、程度等とのバランスを併せて考慮する必要があります。
具体的には、解雇に「客観的に合理的な理由」が認められる場合であっても、上記の従業員に有利となり得るあらゆる事情を踏まえた結果、解雇が「厳しすぎる」と判断される場合、その解雇は社会的相当性を欠き、解雇が無効とされる可能性があります。
なお、解雇に「客観的に合理的な理由」がある場合でも「不当な動機・目的」をもって行われた場合は、もとより「社会相当性を欠く」と評価されるので注意が必要です。
記事のまとめ
問題社員への対応は、企業の健全な労働環境を維持するために極めて重要な課題です。特に中途採用社員の場合、即戦力としての期待が高いため、問題が発生した際には迅速かつ誠実に対応し、問題解決のプロセスを適切に進めることが求められます。解雇は最終手段であり、それに至るまでの改善機会の提供が企業としての責任です。
以下のステップを踏むことで、公正で効果的な問題解決が可能となります。
これらの対応を適切に実施することで、企業は公正かつ合理的な姿勢を示しつつ、法的リスクを最小限に抑えた問題社員への対応を進めることができます。
⚠「本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、具体的なご相談は弊事務所までご連絡ください。」