新卒社員を能力不足で普通解雇できる?会社が確認すべきポイント

新卒社員を能力不足で普通解雇できる?会社が確認すべきポイント

普通解雇

新卒社員を能力不足で普通解雇できる?会社が確認すべきポイント

新卒社員について、「仕事ができない」「期待した水準に届かない」という評価だけで普通解雇を進めると、解雇の有効性が争われ、解雇後の賃金相当額の支払い、復職対応、和解金などが問題になることがあります。
特に新卒一括採用では、入社時点で完成された職務能力を前提にしているとは限らないため、採用時の前提、教育・指導の経過、配置転換の可能性、改善機会を慎重に確認する必要があります。

新卒社員について、次のように感じる場面があります。

「思っていたより仕事ができない」

「何度教えても同じミスをする」

「このまま雇い続けるのは難しいのではないか」

特に小規模企業では、1人の社員に任せる業務の幅が広く、教育に割ける人員や時間にも限りがあります。
そのため、期待した水準に届かない状態が続くと、会社としても大きな負担を感じることがあります。

しかし、能力不足があるからといって、直ちに普通解雇が有効になるとは限りません。
新卒社員の場合、そもそも入社時点で完成された職務能力を前提に採用しているとは限らないため、
普通解雇を検討する前に、労働契約の内容や会社側の対応経過を整理する必要があります。

この記事で伝えたいこと

新卒社員に能力不足がある場合でも、それだけで直ちに普通解雇できるとは限りません。
特に新卒採用では、採用時にどのような能力や働き方を前提としていたのか、
能力不足の具体的内容、業務への支障、教育・指導の経過、
会社側の任せ方・指導体制、配置転換や別業務の可能性を順番に確認することが重要です。

新卒社員の能力不足は、採用時の前提から確認する

会社から見ると、「仕事ができない」「覚えが悪い」「同じミスを繰り返す」という状態は、
かなり深刻な問題に見えることがあります。

ただし、新卒社員の普通解雇を検討する場面では、単に能力不足があるかどうかだけでなく、
会社が最初からその能力を求めて採用したのか、それとも入社後に身につけてもらう前提だったのか
を確認する必要があります。

新卒一括採用では、入社時点で特定の業務を一人で遂行できることまで求めているとは限りません。
多くの場合、入社後に教育し、配属し、経験を積ませながら職務能力を身につけてもらうことが前提になります。

そのため、能力不足の内容、業務への支障、改善可能性、会社側の教育・指導の経過などを整理しないまま解雇に進めると、後から解雇の有効性が争われる可能性があります。

新卒一括採用では、入社後に育てる前提が強い

新卒一括採用では、採用時点で配属先や具体的な担当業務が明確に決まっていないことも少なくありません。
学歴、成績、面接での印象、将来性などを見ながら採用し、入社後に教育し、配属し、経験を積ませながら育てていくことが予定されている場合があります。

新卒一括採用は、完成された職務能力を買う契約というより、入社後に育てて配置していく前提が強い採用です。

そのため、「期待していたほど能力がない」「配属先で十分に活躍できていない」という事情があっても、
それだけで直ちに普通解雇できるとは限りません。

会社としては、まず採用時にどのような能力を前提としていたのか、
入社後にどのような教育や指導を行ったのか、
改善の機会を与えたのか、
他の業務や配置で対応できる可能性がなかったのかを確認する必要があります。

普通解雇を検討する前に確認したいポイント

新卒社員の能力不足を理由に普通解雇を検討する場合は、
感覚的に「仕事ができない」と判断するのではなく、
会社として説明できる材料を整理しておくことが重要です。

確認1

採用時に、どのような能力や働き方を前提としていたか

確認2

どの業務について、どの程度の能力不足があるのか

確認3

その能力不足によって、業務上どのような支障や損害が出ているのか

確認4

教育・指導・改善機会を十分に与えていたか

確認5

会社側の任せ方・指導体制に無理がなかったか

確認6

配置転換や別業務で対応できる可能性を検討したか

これらの確認をしないまま普通解雇を進めると、
後から解雇の有効性が争われたときに、
会社が「なぜ雇用を続けることが難しいと判断したのか」を十分に説明できないおそれがあります。

そのため、能力不足の内容だけを見るのではなく、業務への支障、教育・指導の経過、
会社側の任せ方や指導体制を確認する必要があります。

そのうえで、配置転換や別業務で対応できる可能性がないかまで、
順番に整理しておくことが重要です。

採用時に、どのような能力や働き方を前提としていたか

まず確認したいのは、採用時にどのような能力や働き方を前提としていたのかという点です。

募集要項、採用面接での説明、雇用契約書、労働条件通知書、配属予定の有無などを確認し、
会社がその従業員にどのような役割や成長を期待していたのかを整理します。

  • 総合職などとして、幅広く育成・配置していく前提だったのか
  • 一般職・事務職などとして、主な業務範囲をある程度想定して採用していたのか
  • 職種・職務や専門的な能力・資格・経験を明確に前提として採用していたのか

新卒一括採用の場合、入社時点で特定の業務を一人で遂行できる能力を明確に求めているとは限りません。
そのため、能力不足を理由に普通解雇を検討する場合でも、
その能力が「最初から持っている前提の能力」だったのか、
「入社後に身につけてもらう前提の能力」だったのか
を整理する必要があります。

どの業務について、どの程度の能力不足があるのか

次に、能力不足の内容を具体化します。
「仕事ができない」という表現だけでは、普通解雇を検討するための材料としては抽象的です。

ここで確認したいのは、採用時や労働契約上予定していた水準と、
実際の職務遂行状況との間に、どのような差があるのかという点です。

  • 何ができていないのか:どの業務で、どのようなミス・遅れ・理解不足があるのか
  • どの水準に達していないのか:採用時の前提や担当業務から見て、どの程度不足しているのか
  • どの程度続いているのか:一時的な不慣れなのか、指導後も同じ状態が続いているのか
  • 比較して見ても差があるのか:同時期入社・同職種・同程度の経験者と比べて、どの程度の差があるのか

ただし、他の従業員と比べて劣っているというだけではなく、
本人の経験年数、教育状況、担当業務の内容、会社が求めていた水準との関係で整理する必要があります。

能力不足を理由に普通解雇を検討する場合は、
「何ができていないのか」「どの水準に達していないのか」「どの程度続いているのか」に加えて、
同時期入社・同職種・同程度の経験者と比較しても差があるのかを、できるだけ具体的に整理しておくことが重要です。

業務上どのような支障や損害が出ているのか

能力不足があるとしても、それだけで直ちに普通解雇が有効になるとは限りません。
その能力不足によって、会社の業務にどのような支障が出ているのかも確認する必要があります。

たとえば、本人のミスによって周囲の従業員が大きな負担を負っているのか、
顧客対応、納期、品質、社内の業務運営に具体的な支障が出ているのか、
あるいは今後重大な支障が生じるおそれがあるのかを整理します。

  • 顧客対応や取引先対応に支障が出ているか
  • 納期遅れや品質低下が発生しているか
  • 上司や同僚が継続的にフォローせざるを得ない状態か
  • 本人のミスによって金銭的損害や信用低下のおそれがあるか
  • 安全面・健康面・職場秩序への影響があるか

普通解雇を検討する場面では、「能力が足りない」という評価だけでなく、
その能力不足によって会社の業務にどのような影響が出ているのかを説明できるようにしておくことが重要です。

能力不足に見える問題に、協調性不足や勤務態度不良が混ざる場合

新卒社員の問題は、一見すると「能力不足」に見える場合でも、報連相不足、周囲との連携不全、上司の指示に従わない態度、注意後の反発など、協調性不足や勤務態度不良の要素が混ざることがあります。

重要なのは、問題を一つの分類に決めつけることではなく、具体的な言動、会社が求めていた行動、業務への支障、注意指導後の本人の反応を整理することです。

協調性不足を理由に普通解雇できる?会社が確認すべきポイントを見る

勤務態度不良を理由に普通解雇できる?会社が確認すべきポイントを見る

教育・指導・改善機会を十分に与えていたか

新卒社員については、入社後に教育し、経験を積ませながら成長してもらうことが予定されている場合があります。
そのため、能力不足があるとしても、会社がどのような教育・指導を行っていたかは重要です。

研修、OJT、上司からの指導、面談、フィードバック、改善指示などを行っていたかを確認します。
また、会社側が内心で「改善してほしい」と思っていただけではなく、本人に対して具体的に改善点を伝え、改善する機会を与えていたかも整理する必要があります。

確認しておきたい視点

何を、いつまでに、どの程度改善してほしいのかを本人に伝え、
その後の改善状況を確認していたかを整理しておくことが重要です。

注意指導や面談を行った場合は、日時、内容、本人の反応、改善状況を記録しておくと、
会社としてどのような対応をしてきたのかを説明しやすくなります。

新卒・第二新卒の能力不足対応について

新卒・第二新卒の能力不足については、解雇の可否だけでなく、日常的な教育・指導・面談・記録化も重要です。

新卒・第二新卒の能力不足対応を見る

評価結果だけで判断しないために

新卒社員について人事考課で低い評価をつけている場合でも、評価結果だけで普通解雇を判断することはできません。
なぜその評価になったのか、本人に何を伝え、どのような改善機会を与えたのかを整理することが重要です。

人事考課が低いことを理由に普通解雇できる?会社が確認すべきポイントを見る

会社側の任せ方・指導体制に無理がなかったか

能力不足に見える場合でも、その原因が本人だけにあるとは限りません。
会社側の任せ方や指導体制に無理がなかったかも確認する必要があります。

  • 採用時の説明と実際の業務内容に大きなズレがなかったか
  • 本人の経験や教育状況に比べて、業務の難易度・量・任せる範囲が過大になっていなかったか
  • 指示や評価基準が曖昧になっていなかったか
  • 指導担当者や相談先が明確だったか

会社側にも事情がある場合は少なくありません。
ただ、後から解雇の有効性が争われたときには、
会社側の業務の任せ方や指導体制に無理がなかったかも確認されることがあります。

そのため、会社としてどのような体制で教育・指導し、どのような業務を任せていたのかを、
事前に整理しておくことが大切です。

配置転換や別業務で対応できる可能性を検討したか

新卒社員の場合、入社時点で特定の業務だけを担当する前提ではなく、
配属や異動を通じて適性を見ていくことが予定されている場合があります。

そのため、現在の配属先で能力不足が見られる場合でも、
他部署や別業務で対応できる可能性がないかを検討することがあります。

もっとも、小規模企業では、大企業のように複数の配転先を用意することが難しい場合もあります。
その場合でも、会社としてどのような検討をしたのか、なぜ他の対応が難しいのかを整理しておくことが大切です。

配置転換が現実的に難しい場合でも、「検討していない」のか「検討したが難しい」のかでは、後から説明できる内容が変わります。

同じ新卒でも、職種や専門性を前提に採用している場合があります

ここまでの説明は、主に総合職のように、入社後の育成や配置を前提とする採用を想定しています。

一方で、同じ新卒でも、保育士、薬剤師、専門職など、
担当する職種や必要な資格・専門性を前提に採用している場合があります。

このような場合は、総合職採用と比べて、会社が求めていた職務能力の内容が具体的になりやすくなります。
そのため、何を求めて採用したのか、どの能力が不足しているのか、どの業務に支障が出ているのかを整理しやすい場合があります。

また、職種や専門性を前提に採用している場合は、
改善に向けた対応や配置転換の検討範囲も変わることがあります。
総合職のように幅広い部署や業務への配置を当然に前提とするのではなく、
まずはその職種の中での指導、業務調整、担当変更などを確認することになります。

ただし、職種や専門性を前提に採用していたとしても、
それだけで直ちに普通解雇できるわけではありません。
採用時に求めていた能力の内容、実際の業務への支障、教育・指導や改善機会の有無、
職種内での対応可能性、本人への説明や記録を個別に整理する必要があります。

職種や専門性を前提に採用している場合の考え方

職種や専門性を前提に採用している場合は、新卒か中途かにかかわらず、
会社が任せる予定だった仕事や、求めていた職務能力の内容が具体的になりやすい面があります。

そのため、能力不足の内容や業務への支障を整理しやすくなる一方で、
配置転換や別業務の検討も、その職種や専門性を前提に考える必要があります。
この点は、中途採用者や経験者採用の能力不足対応とも共通するため、関連する記事で整理しています。

中途採用者の能力不足対応を見る

解雇を検討する前に、対応経過を記録しておく

新卒社員の能力不足を理由に普通解雇を検討する場合は、
最終的な判断だけでなく、それまでの対応経過を整理しておくことが重要です。

  • 採用時の前提:募集要項、採用時の説明、雇用契約書、労働条件通知書
  • 配属・担当業務:配属先、担当業務、採用時の説明と実際の業務内容とのズレ
  • 能力不足の具体的内容:ミス、遅れ、理解不足、求めていた水準との差、同時期入社・同職種の従業員との比較
  • 業務への支障・損害:顧客対応、納期、品質、再作業、周囲のフォロー、現場への影響、会社側の負担
  • 教育・指導・改善機会:教育・指導を行った日時と内容、本人に伝えた改善事項、改善期限、求めた到達水準
  • 本人の反応・改善状況:本人の受け止め、反応、その後の改善状況
  • 会社側の任せ方・指導体制:業務の難易度・量・任せる範囲、指導担当者や相談先、指示や評価基準
  • 配置転換・別業務の検討:配置転換、担当変更、別業務の候補、検討したが難しかった理由

これらを整理しておくことで、会社としてどのような対応をしてきたのか、
どのような事情から雇用継続が難しいと判断したのかを、後から説明しやすくなります。

普通解雇を検討する前に大切なのは、感情的に「仕事ができない」と判断することではなく、
会社として説明できる事実と対応経過を整理しておくことです。

まとめ:新卒社員の普通解雇は、採用時の前提と対応経過を整理して判断する

新卒社員に能力不足がある場合でも、それだけで直ちに普通解雇が有効になるとは限りません。

新卒採用には、総合職のように入社後の育成や配置を前提とする場合もあれば、
職種や専門性を前提に採用している場合もあります。
同じ新卒社員でも、採用時の前提によって確認すべきポイントは変わります。

新卒社員の能力不足を理由に普通解雇を検討する場合は、
次の流れで整理しておくことが大切です。

1. 採用時の前提
総合職的な育成前提なのか、職種や専門性を前提にした採用なのか。

2. 能力不足の具体的内容
何ができていないのか、どの水準に達していないのか、比較して見ても差があるのか。

3. 業務への支障
その能力不足によって、現場や業務にどのような影響が出ているのか。

4. 教育・指導の経過
何を改善してほしいと伝え、どのような改善機会を与えていたのか。

5. 会社側の任せ方・指導体制
業務の難易度、量、任せる範囲、相談体制に無理がなかったか。

6. 配置転換や別業務の可能性
他の対応が可能だったのか、検討したが難しかったのか。

これらを整理しないまま解雇を進めると、
後から解雇の有効性が争われたときに、
会社が「なぜ雇用を続けることが難しいと判断したのか」を十分に説明できないおそれがあります。

小規模企業では、教育体制や配置転換に限界があることもあります。
だからこそ、感情的に「仕事ができない」と判断するのではなく、
会社として説明できる事実と対応経過を、早い段階で整理しておくことが重要です。

新卒社員の普通解雇を進める前に、判断材料を整理します

新卒社員の能力不足は、「仕事ができない」という印象だけで判断すると、
後から解雇の有効性を争われたときに、会社側の説明が難しくなることがあります。

採用時の前提、能力不足の具体的内容、業務への支障、教育・指導の経過、
会社側の任せ方・指導体制、配置転換や別業務の可能性などを整理したうえで、
普通解雇を進めるべきか、他の対応を検討すべきかを確認することが重要です。

田中社会保険労務士・行政書士事務所では、解雇ありきではなく、
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