会社の信用や名誉を傷つけた従業員を普通解雇できる?会社が確認すべきポイント
従業員が会社や代表者、店舗、施設などの信用や名誉を傷つける行為をした場合、「会社の外で信用を傷つけた」という理由だけで普通解雇を進めると、解雇後の賃金相当額の支払い、復職対応、和解金などが問題になることがあります。
また、訴訟になれば、会社は、外部に伝えられた内容が本当に信用を傷つけるものだったのか、顧客・取引先・利用者などにどのような影響があったのかを、具体的な事実として説明する必要があります。
従業員の言動について、次のように感じる場面があります。
「取引先や顧客に、会社の信用を落とすような話をしている」
「SNSで会社や代表者を批判する投稿をしている」
「外部の人に、事実と違う内容を伝えているようだ」
会社の信用や名誉を傷つける行為は、社内での勤務態度不良や能力不足とは少し性質が異なります。
社内の問題であれば、注意指導、教育、改善機会、配置転換などを通じて改善を求めることが中心になります。
これに対して、外部に向けて会社の信用を傷つける行為は、顧客、取引先、利用者、地域社会などに影響が広がることがあります。
そのため、単なる社内トラブルではなく、会社の事業の根幹に関わる信頼関係の問題として見られる場合があります。
ただし、会社に不利な内容を外部に伝えたこと自体が、直ちに普通解雇の理由になるわけではありません。
事実に反する内容を述べたのか、事実を歪めたのか、必要な範囲を超えて会社の信用を傷つけたのか、
その行為によって会社にどのような影響が生じたのかを整理する必要があります。
会社の信用や名誉を傷つける行為を理由に普通解雇を検討する場合、重要なのは「外部に言ったから解雇できる」という発想ではありません。
問題となるのは、その行為が事実に反するものか、会社の社会的信用をどの程度傷つけるものか、顧客・取引先・利用者などにどのような影響を与えるか、
そして労働契約上の信頼関係を維持できないといえるかという点です。
このページでは、従業員が会社や代表者、店舗、施設などの信用や名誉を傷つけた場合の普通解雇について整理しています。
中心になるのは、その行為が単なる社内トラブルにとどまるのか、顧客・取引先・利用者など外部関係者からの信用に影響する問題なのかという点です。
労働契約の終了全体を確認したい場合は、総合案内ページで整理しています。
会社の信用や名誉を傷つける行為は、社内問題とは見方が異なる
普通解雇では、まず従業員が労働契約上求められる労務提供をできているかが問題になります。
能力不足、勤務態度不良、勤怠不良、協調性不足などは、主に社内での労務提供や職場秩序に関する問題です。
これに対して、会社の信用や名誉を傷つける行為は、会社の外に影響が広がる点に特徴があります。
取引先、顧客、利用者、行政、地域社会などに対して会社の信用が低下すると、単なる社内の注意指導だけでは回復しにくい問題になることがあります。
- 社内問題:能力不足、勤務態度不良、勤怠不良、協調性不足など
- 社外問題:顧客・取引先・利用者など、会社の外部関係者に会社の信用を傷つける内容を伝える行為
- 判断の焦点:会社の事業の根幹に関わる信用を損なったか、労働契約上の信頼関係を維持できるか
社内での能力不足や勤務態度不良では、
本人に対して改善努力や再教育の機会を与えたか
が見られやすくなります。
一方で、社外で会社の信用や名誉を傷つける行為では、
会社が事業を続けるうえで必要な社会的信用を損なったか
という点が重く見られることがあります。
「会社に不利なことを外部に言った」だけでは足りない
会社としては、従業員が外部に会社への不満や批判を伝えた場合、
「会社の信用を傷つけられた」と感じることがあります。
しかし、会社に不利な内容を外部に伝えたことだけで、直ちに普通解雇の理由になるわけではありません。
労働条件について行政機関に相談する、弁護士や専門家に相談する、労働組合に相談する、法令違反の疑いについて適切な窓口に申告するなど、従業員の正当な相談・申告・権利行使として扱うべき場面もあります。
会社に不利な内容を外部に伝えたこと自体を、直ちに信用毀損行為として扱うのは危険です。まずは、正当な相談・申告・権利行使にあたる可能性がないかを確認する必要があります。
問題になるのは、単に会社に不利な話をしたことではなく、
虚偽の事実を述べる、事実を歪めて伝える、必要な範囲を超えて会社や代表者の信用を傷つける、外部に広く拡散させるなど、行為の内容・方法・影響が重い場合です。
- 外部に伝えた内容が事実に反していないか
- 一部の事実だけを切り取って、会社を不当に悪く見せていないか
- 相談や申告に必要な範囲を超えて、会社の信用を傷つける内容を広めていないか
- 顧客・取引先・利用者など、会社の信用に直結する相手に伝えていないか
- SNS、週刊誌、インターネット上の投稿などにより、広く拡散する可能性がないか
このように、会社としては「外部に言った」という一点だけで判断するのではなく、
何を、誰に、どのような方法で伝え、その結果として会社の信用にどのような影響が生じたのか
を確認する必要があります。
学校・医療・福祉・士業などでは、信用が事業の根幹になることがある
会社や団体の種類によって、社会的信用の重みは異なります。
たとえば、学校、医療機関、福祉施設、士業事務所、金融関係、顧客の個人情報を扱う事業などでは、
顧客・利用者・生徒・保護者・地域社会からの信用が、事業の継続に大きく関わります。
このような業種では、従業員が外部に向けて事実と異なる内容を伝えたり、会社や施設の信用を大きく傷つける行為をした場合、その行為は単なる内部の不満表明では済まないことがあります。
- 学校:生徒・保護者・地域社会からの信頼が生徒募集や学校運営に影響する
- 医療・福祉:利用者・家族からの安心感や安全性への信頼が重要になる
- 士業・専門サービス:守秘義務、専門性、公正さへの信頼が事業の前提になる
- 店舗・サービス業:顧客からの評判や口コミが売上・採用に影響する
- 取引先との継続取引が重要な会社:信用低下が取引停止や契約終了につながることがある
裁判例でも、学校法人において、学校運営や校長の信用に関わる内容を外部に伝えた行為が問題となった事案があります。
このような事案では、外部に伝えた内容が事実に反するか、事実を歪めているか、学校や団体の社会的信用をどの程度傷つけるかが検討されています。
解雇後に判明した事実が、判断に影響することもある
信用毀損行為の事案では、解雇後に新たな事実が判明することがあります。
たとえば、解雇時には会社が把握していなかった外部への情報提供、文書の送付、SNS投稿、顧客への説明などが、後から明らかになる場合です。
ここで注意したいのは、解雇後に新しく発生した事実と、解雇時には会社が知らなかったものの、解雇時点ですでに存在していた事実を分けることです。
- 解雇後に新しく発生した事実:原則として、その解雇時点の理由そのものにはしにくい
- 解雇時点ですでに存在していたが、後から判明した事実:解雇事由や信頼関係の判断に関係する事情として問題になることがある
たとえば、解雇時には会社が把握していなかったとしても、実際には解雇前から外部に虚偽の内容を伝えていた、会社の信用を傷つける文書を送っていた、顧客や取引先に事実を歪めて説明していたという事情が後から判明することがあります。
このような場合、その事実が解雇時点ですでに存在しており、かつ従業員としての適格性や労働契約上の信頼関係に大きく関わるものであれば、解雇の有効性判断に影響することがあります。
ただし、解雇後に何か見つかれば何でも後出しで使えるわけではありません。解雇時点ですでに存在していた事実か、解雇事由と関係する事実か、会社がどのように主張・説明するかを慎重に整理する必要があります。
実務上は、解雇後に事実が判明した場合でも、すぐに「これで解雇は有効になる」と考えるのではなく、
その事実がいつ発生したのか、解雇時点で存在していたのか、会社の信用や信頼関係にどの程度関わるのかを確認する必要があります。
普通解雇と懲戒解雇を混同しない
会社の信用や名誉を傷つける行為は、普通解雇だけでなく、懲戒処分や懲戒解雇の問題にもなり得ます。
たとえば、就業規則に会社の信用を傷つける行為、秘密情報の漏えい、虚偽の事実を流布する行為などが懲戒事由として定められている場合です。
もっとも、普通解雇と懲戒解雇は性質が異なります。
普通解雇は、労働契約を続けることが難しいかという問題です。
懲戒解雇は、企業秩序違反に対する制裁として、最も重い処分を行う問題です。
- 普通解雇:労働契約上の信頼関係を維持できるか、雇用継続が難しいかを確認する
- 懲戒処分:就業規則上の懲戒事由に該当するか、処分内容が重すぎないかを確認する
- 懲戒解雇:懲戒処分の中でも最も重いため、根拠・手続・相当性を特に慎重に確認する
信用毀損行為があった場合でも、必ず懲戒解雇に進むべきとは限りません。
行為の内容、悪質性、外部への影響、本人の言い分、過去の勤務状況、就業規則上の根拠、会社の対応経過を踏まえて判断します。
あわせて、過去の同種・類似事案で会社がどのような対応をしてきたかも確認が必要です。
似たような行為について過去には注意指導や軽い懲戒処分にとどめていたのに、今回だけ直ちに重い処分を選ぶと、対応の一貫性が問題になることがあります。
また、懲戒処分や懲戒解雇を検討する場合は、普通解雇とは別に、
就業規則上の懲戒事由・処分内容の根拠があるか、その就業規則が従業員に周知されているか
を確認する必要があります。
根拠や周知が不十分なまま懲戒処分を行うと、処分自体の有効性が問題になることがあります。
そのうえで、注意指導や人事上の対応で足りるのか、懲戒処分を検討すべきか、退職勧奨や解雇まで検討すべきかを整理する必要があります。
会社の信用や名誉を傷つける行為は、勤務態度不良や企業秩序違反の一場面として整理されることもあります。
ただし、外部への信用低下が問題になる場合は、社内での態度不良とは異なる観点から整理する必要があります。
初動対応では、裁判所の評価軸を意識して整理する
従業員が会社の信用や名誉を傷つける行為をした可能性がある場合でも、会社が感情的に動くと、後から対応自体が問題になることがあります。
まずは、事実関係、影響範囲、本人の言い分、会社として取り得る対応を順番に整理することが重要です。
このとき大切なのは、単に「何が起きたか」を確認することだけではありません。
会社として、裁判所が後から見るであろう評価軸を意識しながら、
その行為が労働契約上の信頼関係をどの程度損なうものかを見通す必要があります。
問題となる発言・文書・投稿を確認する
いつ、どこで、誰に対して、どのような内容が伝えられたのかを確認します。
ここでは、まず外部に伝えられた内容そのものを特定します。
事実との関係を確認する
その内容が事実に反するのか、事実を歪めているのか、評価や意見にとどまるのかを分けます。
裁判所の評価では、虚偽や歪曲があるかが重要になります。
証拠を保全する
メール、文書、SNS投稿、録音、顧客からの連絡内容など、確認できる資料を保存します。
後から争いになった場合、会社が問題視した内容を具体的な資料で説明できるかが問われます。
外部への広がりと事業への影響を確認する
顧客・取引先・利用者など会社の信用に直結する相手に伝えられたのか、広く拡散する可能性があるのか、
苦情、問い合わせ、解約、社内外の混乱などが生じているのかを確認します。
ここでは、会社の事業の根幹に関わる信用を損なったかを見ます。
本人の言い分を確認する
事実関係や発言の意図、経緯、本人の認識を確認します。
正当な相談・申告・権利行使にあたる可能性がないかも確認し、最初から結論ありきで面談しないことが重要です。
信頼関係の維持可能性を見通す
ここまで整理した事実をもとに、会社として雇用を継続できるか、
注意指導、人事上の対応、懲戒処分、退職勧奨、解雇など、どの対応が現実的かを検討します。
つまり、初動対応は、単なる事実確認ではありません。
何を、誰に、どのような方法で伝え、その結果として会社の信用にどのような影響が生じたのかを整理し、そのうえで、第三者から見ても雇用継続が難しいと説明できるかを見通す作業です。
普通解雇を検討する前に確認したいポイント
会社の信用や名誉を傷つける行為を理由に普通解雇を検討する場合は、感情的に「もう信用できない」と判断するのではなく、
問題となる行為の内容、外部への影響、会社として行った対応を順番に確認する必要があります。
問題となる発言・文書・投稿・情報提供の内容は何か
その内容は事実に反するものか、事実を歪めたものか、評価や意見にとどまるものか
誰に対して伝えられたのか。顧客、取引先、利用者など会社の信用に直結する相手か
SNSやインターネット、報道機関などを通じて、広く拡散する可能性があるか
会社の事業の根幹に関わる信用を傷つける内容か
会社に実際の影響が生じているか。問い合わせ、苦情、取引への影響、社内外の混乱などがあるか
正当な相談・申告・権利行使にあたる可能性がないか
本人の言い分や、発言・情報提供に至った経緯を確認したか
就業規則上の普通解雇事由や服務規律違反との関係を整理しているか
懲戒処分を検討する場合、普通解雇とは別に、就業規則上の懲戒事由、手続、処分の相当性を確認しているか
これらの事情を踏まえて、会社として雇用継続が難しいと説明できるか
これらを整理しておくことで、会社として何を問題と考え、なぜ労働契約上の信頼関係を維持できないと判断したのかを説明しやすくなります。
まとめ:信用毀損行為は、外部への影響と信頼関係の維持可能性を整理する
会社の信用や名誉を傷つける行為があっても、
それだけで直ちに普通解雇が有効になるとは限りません。
重要なのは、外部に伝えられた内容が事実に反するのか、会社の信用をどの程度傷つけるのか、事業の根幹にどのような影響を与えるのか、
そして会社として雇用を継続することが難しいと説明できるかを整理することです。
1. 社内問題と社外問題は、見方が異なります。
能力不足や勤務態度不良は、主に社内での労務提供や職場秩序の問題です。
一方、会社の信用や名誉を傷つける行為は、顧客・取引先・利用者など外部への影響が問題になります。
2. 「外部に言った」だけでは足りません。
会社に不利な内容を外部に伝えたこと自体が、直ちに普通解雇の理由になるわけではありません。
正当な相談・申告・権利行使にあたる可能性も確認する必要があります。
3. 事実に反する内容か、事実を歪めた内容かを確認します。
虚偽の事実を述べたのか、一部の事実だけを切り取ったのか、評価や意見にとどまるのかを分けて整理することが重要です。
4. 事業の根幹に関わる信用かどうかを確認します。
学校、医療、福祉、士業、サービス業など、社会的信用が事業の前提となる業種では、外部への信用低下が重く見られることがあります。
5. 解雇後に判明した事実は、発生時期と内容を分けて確認します。
解雇後に新しく発生した事実なのか、解雇時点ですでに存在していたが後から判明した事実なのかによって、整理の仕方が変わります。
6. 最後は、どの対応を選ぶべきかを整理します。
行為の内容、外部への影響、本人の言い分、就業規則上の根拠、過去の同種・類似事案での対応を踏まえて、
注意指導や人事上の対応で足りるのか、懲戒処分を検討すべきか、退職勧奨や解雇まで検討すべきかを整理する必要があります。
会社の信用や名誉を傷つける行為への対応を検討する場合は、
抽象的に「信用できない」とまとめるのではなく、
外部に伝えられた内容、事実との関係、外部への広がり、事業への影響、本人の言い分、会社の対応経過を整理する必要があります。
そのうえで、就業規則上の根拠や過去の同種・類似事案での対応も踏まえながら、
注意指導、人事上の対応、懲戒処分、退職勧奨、解雇などの選択肢の中から、
この事案ではどの対応を選ぶべきかを判断できる状態にすることが重要です。
会社の信用や名誉を傷つける行為への対応を整理します
従業員が会社の信用や名誉を傷つける行為をした場合、会社としては強い不信感を抱きやすくなります。
しかし、感情的に「もう信用できない」と判断してしまうと、後から対応自体が問題になることがあります。
外部に伝えられた内容、事実との関係、顧客・取引先・利用者などへの影響、
正当な相談・申告との区別、本人の言い分、就業規則上の根拠、過去の同種・類似事案での対応を整理したうえで、
注意指導、人事上の対応、懲戒処分、退職勧奨、解雇などの選択肢を検討することが重要です。
田中社会保険労務士・行政書士事務所では、解雇ありきではなく、
会社の信用や名誉を傷つける行為について、事実関係、外部への影響、会社の対応経過を整理し、
経営者がこの事案でどの対応を選ぶべきか判断できるよう、実務面からサポートしています。
