従業員との雇用関係が終わる場面は、一見すると「退職」「解雇」「契約終了」といった言葉でまとめられがちです。
しかし実務では、当然退職、合意退職、辞職、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇、雇止めなど、どの終わらせ方として整理するかによって、会社のリスクや取るべき対応は変わります。
会社は「退職した」と思っていた。
けれど、後から「それは解雇だった」と争われることがあります。
日常会話では、従業員との雇用関係が終わる場面をまとめて、 「退職した」「辞めてもらった」「契約を終了した」と表現することがあります。
しかし実務では、この言葉の使い方を誤ると、対応そのものを誤ることがあります。 退職として処理したつもりでも、経緯や伝え方によっては、 後から「実質的には解雇だったのではないか」と争われることがあるからです。
怖いのは、「辞めた」という結果だけを見て、終わらせ方の整理を飛ばしてしまうことです。
退職として処理したつもりでも、後から解雇と評価され、その解雇が無効と判断されると、 会社が給与を止めていた期間について、賃金の支払いを求められることがあります。
争いが長引けば、数か月分、場合によっては1年分以上の人件費が、 ある日まとめて経営上の負担として表面化することがあります。 だからこそ、最初に「どの終わらせ方なのか」を整理しておくことが重要です。
雇用終了の対応では、「辞めることになった」という結果だけでなく、 誰の意思で、どのような経緯で、どの根拠により終了するのかを整理することが大切です。 終わらせ方の見通しが立つと、そこから逆算して会社が取るべき適切な対応が見えてきます。
このページでは、従業員との雇用関係が終わる場面を、当然退職、合意退職、辞職、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇、雇止めの7つに分けて整理しています。
個別の対応に入る前に、「どの終わらせ方として整理するのか」を確認するための地図として位置づけています。
問題社員対応や休職・復職対応など、個別の場面から雇用終了を検討する場合は、各テーマの記事もあわせて確認してください。
雇用終了の場面は、大きく7つに整理できます
従業員との雇用関係が終わる場面は、大きく分けると次の7つに整理できます。
当然(自然)退職
定年、死亡、休職期間満了など、一定の事由が発生したことで労働契約が終了する場面です。
合意退職
会社と従業員が、退職日や条件について合意して労働契約を終了する場面です。
辞職
従業員が一方的に退職の意思表示をし、労働契約を終了させる場面です。
普通解雇
能力不足、勤務態度不良、私傷病による就労不能などを理由に、会社が労働契約を終了させる場面です。
整理解雇
経営上の理由により、人員削減として労働契約を終了させる場面です。通常の解雇とは別の整理が必要です。
懲戒解雇
重大な企業秩序違反などに対して、制裁として労働契約を終了させる場面です。特に慎重な判断が必要です。
雇止め
有期労働契約について、会社が契約を更新せず、期間満了により終了する場面です。
この7つの分類は、雇用終了の場面で会社の対応を見誤らないための地図です。 実際の経緯に照らして、どの終わらせ方として整理するのかを確認することが大切です。
1. 当然(自然)退職
当然退職とは、一定の事由が発生したことにより、労働契約が終了する場面をいいます。
たとえば、労働者の死亡、会社の消滅、定年、休職期間満了などが考えられます。 いずれも「一定の事由が発生したことにより労働契約が終了する」という点では、当然退職として整理されます。
ただし、すべてが同じ根拠で終了するわけではありません。 労働者の死亡や会社の消滅は、契約当事者がいなくなることによって労働契約が終了する場面です。
一方で、定年や休職期間満了による退職は、就業規則や雇用契約書などに退職事由として定められていることを前提に整理されます。 そのため、実務上は、まず会社の規定にどのように定められているかを確認する必要があります。
そのうえで、休職期間満了による退職では、復職可否の判断、医師の診断書、配置転換の可能性、就業規則の定め方などが問題になることがあります。
したがって、当然退職だからといって「自動的に終了」と単純に考えるのではなく、 終了の根拠を確認したうえで、個別の事情に応じて慎重に判断することが重要です。
2. 合意退職
合意退職とは、会社と従業員が合意して労働契約を終了する場面です。
平時の退職であれば、会社と従業員が退職日について合意し、その日をもって労働契約を終了する形で整理されることが多いです。
ただし、退職勧奨の着地点として合意退職を用いる場合や、退職をめぐって争いになりそうな場合には、退職日だけでなく、退職条件を丁寧に整理する必要があります。
たとえば、未払い賃金、有給休暇、退職金、貸与品の返却、秘密保持、清算条項などについて、後日のトラブルを防ぐために確認しておくことがあります。
重要なのは、会社が一方的に「辞めさせる」のではなく、 従業員本人の同意を得て退職する形で整理することです。 ただし、退職を強く迫りすぎると、本当に自由な意思による合意だったのかが問題になることがあります。
3. 辞職
辞職とは、従業員の側から一方的に労働契約を終了させる意思表示です。
会社からすると、「まだ辞めないでほしい」「引継ぎが終わっていない」と感じることがあります。 しかし、従業員本人が退職する意思を明確に示している場合、 会社が承諾しなければ退職できない、という整理にはなりません。
合意退職は、会社と従業員が退職日や条件について合意して終了する場面です。 これに対して辞職は、会社の承諾を前提とせず、従業員の一方的な意思表示によって終了する場面です。
そのため、会社が引き止めたとしても、従業員本人が「それでも退職します」と明確に意思表示している場合には、 合意退職ではなく、辞職として整理されます。
辞職でまず確認すべきなのは、従業員に本当に退職する意思があるのか、退職日をいつにするのかという点です。
特に注意が必要なのは、感情的なやり取りの中で「辞めます」と言われた場面です。 本当に退職の意思表示だったのか、単なる一時的な発言だったのかを確認しないまま退職扱いにすると、後から争いになる可能性があります。
たとえば、従業員が口頭で「辞めます」と言っただけの場合、会社側は「本人が自分から辞めると言った」と考えるかもしれません。 しかし、後になって従業員から「本気で退職するつもりではなかった」「会社から辞めさせられた」と主張されることがあります。
そのため、会社としては、退職の意思があるのか、退職日はいつなのかを本人に確認し、 必要に応じて退職届などの書面で記録しておくことが重要です。
退職届をもらう意味は、単に書類をそろえることではありません。 後から「解雇だった」「本意ではなかった」と争われないように、 本人の退職意思と退職日を明確にするための記録として意味があります。
4. 普通解雇
普通解雇とは、従業員側の事情により、 会社が労働契約を一方的に終了させる場面です。
たとえば、能力不足、勤務態度不良、協調性の欠如、私傷病による就労不能などが問題になることがあります。
- 解雇理由として客観的に説明できる事情があるか
- 注意・指導・改善機会を与えているか
- 配置転換など、解雇以外の手段を検討したか
- 会社の規定やこれまでの運用と矛盾していないか
- 解雇予告や解雇理由証明書への対応は必要か
普通解雇は、会社側から一方的に雇用関係を終了させるため、慎重な判断が必要です。 「問題がある従業員だからすぐに解雇できる」と考えるのは危険です。
実務上は、解雇の前に、 注意指導、業務改善の機会、配置転換 などを確認することが重要になります。
普通解雇は、会社から一方的に雇用関係を終了させるため、 後から解雇の有効性が争われることがあります。 安易な解雇がもたらすリスクについては、次の記事で整理しています。
5. 整理解雇
整理解雇とは、会社の経営上の理由により、 人員削減として労働契約を終了させる場面です。
従業員本人に能力不足や勤務態度不良などの責任があるわけではなく、 会社側の経営事情によって行われる点に特徴があります。
そのため、通常の普通解雇とは別に、人員削減の必要性、解雇回避努力、対象者選定の合理性、説明・協議の状況などが問題になります。
中小企業でも、業績悪化や事業縮小により人員削減を検討する場面はあります。 しかし、「経営が厳しいから」という理由だけで直ちに整理解雇が認められるわけではありません。
6. 懲戒解雇
懲戒解雇とは、重大な企業秩序違反などに対して、 制裁として労働契約を終了させる場面です。
たとえば、横領、重大なハラスメント、業務上の重大な不正、秘密情報の漏えい、重大な服務規律違反などが問題になることがあります。
懲戒解雇は、懲戒処分の中でも特に重い処分です。感情的に判断せず、事実確認・就業規則の根拠・処分の相当性を慎重に確認する必要があります。
懲戒解雇では、そもそも懲戒事由に該当する事実があるのか、証拠はあるのか、弁明の機会を与えたか、 処分が重すぎないかが問題になります。
普通解雇と似て見えることもありますが、懲戒解雇は「制裁」としての性質が強いため、 普通解雇よりも慎重な手続きが求められます。
7. 雇止め
雇止めとは、有期労働契約について、会社が契約を更新せず、 期間満了により終了させる場面です。
契約社員、パート、アルバイトなど、 契約期間の定めがある雇用契約で問題になることがあります。
有期契約は、契約期間が満了すれば終了するのが基本です。
ただし、更新手続きが形だけになっている場合や、 会社の発言・過去の更新実績などから 「次も更新される」と期待させる事情がある場合には、 単に「期間満了だから終了」とはいえないことがあります。
たとえば、契約書上は有期契約であっても、 更新時にほとんど説明がなく、毎回当然のように更新されている場合には、 雇止めをする際に慎重な判断が必要になります。
また、会社側が「来年もお願いする予定です」「次の契約も更新する方向です」といった説明をしていた場合や、 周囲の同じ立場の従業員が通常どおり更新されている場合にも、 本人が契約更新を期待する事情として問題になることがあります。
そのため、雇止めでは、契約書の内容だけでなく、 更新時の説明、過去の更新のされ方、会社側の発言、同じ立場の従業員の取扱い などを確認する必要があります。
雇用終了でトラブルになりやすい4つの混同
実務では、次のような場面が混同されやすいです。 ここを整理できると、会社が取るべき対応を間違えにくくなります。
辞職と合意退職
従業員が一方的に辞めるのか、会社と従業員が退職日や条件に合意して辞めるのかは別の問題です。
当然退職と解雇
休職期間満了などで当然退職と整理する場合でも、実質的に解雇に近い問題として争われることがあります。
雇止めと解雇
有期契約の期間満了による終了でも、更新への期待がある場合には、解雇に近い慎重な判断が必要になることがあります。
普通解雇と懲戒解雇
どちらも会社からの一方的な終了ですが、懲戒解雇は制裁としての性質があるため、根拠と手続きがより重要になります。
雇用終了のトラブルは、「辞めた」という結果だけで処理したときに起こりやすくなります。
会社としては、従業員との雇用関係が終わるときに、 まず「辞職なのか」「合意退職なのか」「当然退職なのか」「解雇なのか」「雇止めなのか」を整理する必要があります。
ここが曖昧なまま進めると、後から「本当は解雇だったのではないか」 「期間満了だけで終了できる場面だったのか」と争われることがあります。
書類の表題や表面的な処理だけで判断しない
雇用終了の場面では、書類の表題だけで判断すると危険です。
たとえば、書類上は「退職届」が出ていても、 会社が強く退職を迫っていた場合には、 本当に本人の自由な意思による退職だったのかが問題になることがあります。
また、「契約期間満了」として処理していても、 更新のされ方や会社側の説明によっては、 単なる期間満了ではなく、雇止めとして慎重な判断が必要になることがあります。
大切なのは、「退職届があるか」「期間満了か」という表面だけを見ることではありません。
誰が、どのような意思表示をし、会社がどのように対応し、 どの根拠で雇用関係が終了したのかを分けて確認することです。
だからこそ、雇用終了の場面では、「その書類があるか」ではなく、 「その終わらせ方として後から説明できるか」 を意識して対応しておくことが重要です。
次に考えること:終わらせ方の見通しから逆算する
書類の名前や表面的な処理だけでは、雇用終了の整理として十分とはいえません。 後から争われたときに、 その終わらせ方として説明できる経緯 があるかが問題になります。
そのため、雇用終了の場面では、最初に 「どの終わらせ方として整理するのか」 という見通しを持つことが重要です。
辞職として整理するなら、本人の退職意思と退職日を確認する必要があります。 合意退職として整理するなら、退職日や条件について合意した経緯を残す必要があります。 解雇として整理するなら、理由や手続を慎重に確認する必要があります。 雇止めとして整理するなら、契約更新の経緯や期待の有無を確認する必要があります。
終わらせ方の見通しが変われば、会社が確認すべきこと、残すべき書面、説明の仕方も変わります。
見通しが曖昧なまま進めると、退職のつもりで処理していたものが後から解雇だと争われたり、 期間満了のつもりで処理していたものが雇止めとして問題になったりすることがあります。
だからこそ、雇用終了の場面では、目の前の出来事だけを見るのではなく、 どの終わり方に向かって整理するのかを確認し、そこから逆算して会社の対応を決めること が重要です。
雇用終了の進め方に迷ったらご相談ください
従業員との雇用関係を終える場面では、 辞職、合意退職、当然退職、解雇、雇止めなど、どの終わらせ方として整理するかによって、 会社が確認すべきことや残すべき書面が変わります。
田中社会保険労務士・行政書士事務所では、実際の経緯を整理し、 どの類型として進めるべきか、初動対応・書面・説明の流れを確認しながら、 経営者が次の一手を判断できるよう、実務面からサポートしています。
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