退職勧奨を成功させるための重要なポイント難易度★★☆

「退職勧奨」の具体的な流れについて

前回は、合意退職を成功させるための3つのポイントについて解説しました。今回は、実際に合意退職をするために有効な取り組みである退職勧奨を成功させるための重要なポイントについて解説します。

退職勧奨の具体的な話し方は、個々の事例に応じてアレンジが必要となるため、必ずしも以下のフローどおりになるわけではありません。

参考として退職勧奨の流れのイメージを持っていただけるよう、以下に例を紹介します。

<退職勧奨のフローチャート>
退職勧奨の方針を社内で共有する(中規模向け)
割増(特別)退職金の予算を確保する(小中規模共通)
想定問答集を作成する(小中規模共通)
対象社員を個室に呼び出す(小中規模共通)
退職してほしいという会社の意向を伝える(小中規模共通)
退職届を提出してもらう(小中規模共通)
退職合意書を作成する(小中規模共通)

1)退職勧奨の方針を社内で共有する(中規模向け)

小規模の会社の場合、問題社員の対応方針を考えるのは、社長となるので中規模向けのフローです。

中規模の会社の場合、問題社員の上司や社長などの関係者に退職勧奨を行うことを根回ししておくことが重要となります。

なぜならば、問題社員との合意退職を成立させるためには、会社幹部が一丸となって取り組む必要があるからです。

2)割増(特別)退職金の予算を確保する(小中規模共通)

「合意退職を成功させるための3つのポイント」の記事で解説したとおり給与の3ヶ月~6ヶ月分の予算を割増(特別)退職金として確保しておく必要があります。

退職金は支給額や勤続年数などに応じて所得税や住民税などの税金が生じる場合があるので、事前に手取りがいくらになるのか計算しておく必要もあります。

割増(特別)退職金は必ずしも払う必要があるわけではありませんが、問題社員と合意退職を早く成立させるためには、ある程度、会社が譲歩する必要があると考えます。

なお、問題社員に対する自己認識の歪みを気付かせる取り組みがなされていない場合だと割増(特別)退職金の予算として給与の3ヶ月~6ヶ月分では効果をなさないことが多いです。詳細は、以下の記事をご確認ください。

3)想定問答を作成する(小中規模共通)

退職勧奨を行った場合、対象社員から質問や反論がなされることがあります。

必ずしもその場で全て回答する必要はありませんが、一定の想定できる問答を準備しておくことで交渉をスムーズに運ぶことができます。主に以下のような質問が考えられます。

<想定問答の例>
💬:これは解雇ですか?
💬:退職を選ばない場合、どうなりますか?
💬:なぜ自分だけなのか?他の人もミスを沢山しています。
💬:誰かに相談してもいいですか?
💬:退職する場合、残りの有給休暇はどのように処理されますか?
💬:失業保険給付を得たいので「解雇」扱いにしてもらえませんか?
💬:在籍した状態で転職活動をしたいので、退職日をもっと先(一ヶ月先等)に設定できませんか?

例えば、「これは解雇ですか?」の質問に対して「はい。そうです。」とした場合、後々、不当解雇だと会社が訴えられたときに会社が解雇をしたと判断されてしまう一要因を作ってしまう可能性があります。

なぜ解雇をせずに「合意退職」をする必要があるのかについては、「安易な解雇がもたらす3つのリスク」の記事で解説しました。これまでの準備を台無しにしてしまうような不用意な回答をしないためにも想定問答集を準備しておくことオススメします。

4)対象社員を個室に呼び出す(小中規模共通)

プライバシーに関わる話をすることになるので、冷静に話せる場所(個室など)を準備し、話し合いを開始します。

可能であれば1対1ではなく会社の方から2名同席できるようにすることをオススメします。これは、1対1で話すと感情的になりがちだからです。

面談後は対象社員の精神面に配慮し、そのまま帰宅させることをオススメします。そのため終業時刻の1時間くらい前にスタートする場合もあります。また、対象社員の気持ちがしずみがちな夕方や年末を避け、午前中や天気の良い日を選ぶ場合もあります。

5)退職してほしいという会社の意向を伝える(小中規模共通)

いよいよ本題に移る段階です。退職勧奨において、1回の面談で即座に対象社員から返事をもらおうとしないことをオススメします。実務的にも法的にも慎重な対応が求められる場面だからです。具体的には、以下のステップを参考に進めることが効果的です。

<退職勧奨の進行ステップ>
1回目の面談
退職を求める会社の考え方を丁寧に説明します。この段階では、相手に十分な検討時間を与えることが重要です。
2回目の面談
面談対象者の考えや懸念点をしっかりと聴き、それに対する会社の対応方針を説明します。
3回目の面談
双方の合意が得られた場合に、退職合意書を取り交わします。

このように、面談を段階的に進めることで、対象社員に十分な説明と検討時間を与え、公平かつ丁寧な対応を心がけることができます。

<退職勧奨の一般的な話法>
💬「●●さん」
💬「これまで●●さんには・・・という問題点があって・・・の支障が生じています。」
💬「何度も私や上司の●●さんから改善をするようにお伝えしてきました」
💬「しかし、改善の見込みがあるとは言いにくい状態となっています」
💬「あなたをどう処遇すべきかについて社内で話し合った結果、あなたにはこの会社が向いていないと考えています」
💬「そのため外に目を向けられ、環境を変えられてはいかがでしょうか」
💬「会社としてはあなたに退職してほしいと考えています」
💬「今日答えてもらう必要はないので、次回の面談までに考えて回答を聞かせていただけますか」
※面談対象者が泣き出したり、感情的になり始めた場合は、その日の面談は中止し、日を改めます。
※面談対象者から質問や反論があった場合は、真摯に対応します。すぐに回答できない場合は、一旦、社内で検討することとして持ち帰ります。

6)退職届を提出してもらう(小中規模共通)

退職勧奨の結果、「退職の時期」や「金銭面での処遇」について話がまとまった場合、必ず退職届を提出してもらいます。

解雇ではなく話し合いの結果、退職となった証拠を残すために口頭で退職の承認を済ませてしまうのは避けるべきです。

また、対象社員の心情的にも次の会社が見つからなかった場合に退職を取り消したいと思うのはよくあるからです。トラブルの再発を招かないためにも退職届は必ず取得します。

7)退職合意書を作成する(小中規模共通)

退職勧奨の結果、「特別(割増)退職金を支給することとなった場合」「有給休暇の買取を行うこととなった場合」、これらの内容を他の従業員に口外されないように配慮する必要があります。

また、「未払い残業代などの清算を行うこととなった場合」、後日、蒸し返されないように適切な対応を取る必要があります。

その他、「後日、SNSなどに会社の誹謗中傷を投稿されてしまわないように対策を講じること」重要なポイントです。

このような場合に備えて、全てのリスクがゼロになるわけではありませんが、退職合意書を作成します。

記事のまとめ

この記事では、退職勧奨を成功させるための重要なポイントを解説しました。退職勧奨は非常にデリケートなプロセスですが、以下のポイントを押さえることで、円滑な進行と納得のいく結果を目指すことができます。

1. 社内方針の共有

問題社員への対応方針を会社幹部間で共有し、一貫した対応を取ることで、曖昧な態度を避けつつ、明確な姿勢を示すことができ、不必要な感情的対立を防ぎます。

2. 特別(割増)退職金の提示

実務的な解決策として、金銭的なサポートを提供することで、早期合意を促すことができます。適切な金額設定が鍵となります。

3. 想定問答集の準備

面談で予測される質問や反論に備えた問答集を準備することで、交渉をスムーズに進められます。

4. 退職届の取得

退職届は、双方の合意に基づく退職であることを確認し、正式な記録として残すために重要です。これにより、退職が解雇ではなく合意に基づくものであることを明確にし、後日の誤解やトラブルを未然に防ぐことができます。

5. 退職合意書の作成

退職合意書は、特別な取り扱い(例:特別(割増)退職金や有給休暇の買取)を行う際に、その内容を記録し、他の従業員への口外を防ぐために用います。また、未払い残業代の清算内容を後から争点にされることを防ぎ、さらに退職後のSNSでの誹謗中傷を抑止する役割も果たします。

これらのポイントを実行することで、感情的な対立を最小限に抑えながら、会社と社員双方が前向きに次のステップへ進むことができます。

次回の記事では、問題社員のタイプ別対応方法について詳しく解説します。

⚠ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的なご相談は、ぜひ弊事務所までお問い合わせください。

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